KAPATIRAN (カパティラン)多文化社会のなかの居場所づくり(前編)

聞き手・まとめ  運営委員・野口 和恵 

 KAPATIRAN(カパティラン)は、外国にルーツを持つ子どもの支援に取り組んでいる団体です。団体名の KAPATIRAN は、タガログ語で「姉妹愛・兄弟愛」を意味します。活動の様子について、事務局の永瀬良子さんにお話をお伺いしました。

Q: カパティランは活動をはじめて30年以上になるとのことですが、どのような経緯で団体が立ち上がったのでしょうか?

 1988年に理事で牧師の神﨑雄二司祭が立川聖パトリック教会に赴任していたとき、興行ビザで入国したフィリピン人女性が教会を訪ねました。彼女たちは仕事の関係で日曜日の朝の礼拝に参列することが難しいことを神﨑司祭が知り、日曜日の午後3時から英語での礼拝を始めたことが、最初のきっかけです。そして、当時社会的に厳しい状態に置かれていたフィリピンからの出稼ぎ女性に寄り添うことができれば、とフィリピン人カウンセラーによるカウンセリング事業をスタートしました。日本人男性との結婚、DV、離婚問題、妊娠出産などの相談が多く寄せられました。その後、フィリピン人女性たちが日本への移住、定着、世代を重ねていく過程において、その課題も大きく変化し多様化してきました。またフィリピン以外の国や民族の存在も大きくなってきたことから、それに応じて、私たちカパティランの役割も変わっていくべきであろうという結論に達しました。そこで、2015年3月31日をもって、電話カウンセリング事業やそれにともなうケースワークを閉鎖し、新しい2つの事業を始めることになりました。
 その1つ目は、多文化社会の中で育つ子どもたちや若者、その母親たちのための「居場所づくり」を目的とした、ごはん会です。日本とフィリピンだけでなく、国や民族を問わず多文化の環境に生まれた子どもたちは、帰属意識や文化理解、アイデンティティの確立などといった困難な問題を抱えながら生きています。このことは現在、社会問題となっている様々な事象との関連も指摘されています。こうした若者子どもたちに対して、「居場所」を提供することでこれらの困難を克服する手助けができないか、これまで得ることのできなかった新しい繋がりを育んでいくことはできないか?そんな問題意識から生まれたのが、この事業です。
 2つ目は、多文化という様々な困難な環境の中で育つ高校生・大学生に支給する、給付型の奨学金事業です。多くの子どもたちは学業を続けるのに十分な収入のない家庭にあり、教育の機会が均等にはあるとは言えません。安心して学業や学校生活が送れるよう、支援を始めました。外国にルーツを持つ学生の多くは、経済的に安心して生活ができる状況にありません。ほとんどの学生は、貸与型奨学金や教育ローンを背負いながら、週5日、6日のアルバイトと学業を両立させるために必死で頑張っています。カパティランの奨学金は、その重荷をほんの少し軽くできるかどうかのささやかなものですが、1人でも多くの学生を支援したいと思っています。

Q: 奨学生の選考にあたっては、どんな点を考慮していますか?

 選考にあたっては、両親、またはどちらか一方の親が外国にルーツを持っているかどうかを考慮しています。また、収入証明を提出してもらい、年収400万円以下の世帯に限定しています。成績証明書も提出してもらい、学業への意欲も確認します。
 書類選考ののち、面接を行ない、厳選な選考によって決定しています。また「顔の見える支援」をキーワードにしているため、大学生には、ごはん会への出席4回を原則とし、3ヵ月に1回、レポートを提出してもらっています。高校生は土曜日に学校や部活があるため、義務にはしていませんが、ほとんどの学生が4回以上参加してくれています。                                        * 後編に続く

(2019年6月発行のニュースレターNo293より)

メキシコ・ストリートチルドレンと出会う旅2018感想文その1

 22回目となったツアーには、日本から大学生5名と社会人2名が参加し、現地メキシコシティ在住の日本人女性4名も部分参加しました。例年と同様に、次の5つの現地NGOを訪ね、子どもたちやスタッフとその活動に参加しました。

プロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェ/ストリートエデュケーションとデイセンター
カサ・アリアンサ・メヒコ/ストリートエデュケーションとデイセンター、男子&女子定住ホー
オガーレス・プロビデンシア/路上訪問と男子&女子定住ホーム、ピクニック
オリン・シワツィン/都市貧困層の子どものための保育所と親への支援
カウセ・シウダダーノ/都市貧困層の子どもや若者のためのコミュニティセンター

 その感想を参加者に語ってもらいます。なお、今年のツアーを通して知った、現地の子どもたちやNGOの活動状況については、11月のツアー報告会にて、旅の案内人をつとめた共同代表の工藤が詳しく報告します。ここでも、3回にわけて、各NGOの状況を紹介したいと思います。
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 早田佳乃(大学生)
 ストリートチルドレンと出会ったこの9日間は、本当に毎日が初めての体験だらけで刺激的な時間でした。行く前はストリートチルドレンとうまく関われるかなど不安だらけで、あまり下準備もせずに行きました。テレビや人から聞いたストリートチルドレンは、ドラッグなどをやっていたり、働きに出させられていたりして、路上で寝泊まりしている子どもたちというイメージでした。

 ストリートチルドレンに会う1日目は、まず施設に行くまでがすでに刺激的でした。メキシコの地下鉄に乗ると、日本人ってことですごく見られて、また車内で物を売っている人を見るのにも初めは驚きましたが、今となってはすごく賑やかで面白かったなと思います。施設に着いてみると、思ったより建物もちゃんとしていて、子どもたちもみんな着ている服が綺麗で、女の子はおしゃれに気を配っているのが見え、想像していたのとは違いました。初めは元ストリートチルドレンの子との間に距離がありましたが、みんなが話しかけてくれて、日本に興味がある子が多く、すぐに仲良くなれたのが、嬉しかったです。言葉が通じなくて困りましたが、向こうが頑張ってパソコンなどを使って何とか言葉を伝えようとしてくれて、私もスペイン語は全然わからないけれど、ジェスチャーなどを使って言葉がそんなに通じなくてもコミュニケーションを取る楽しさが、その1日でわかってきました。

 2日目は、段々とコミュニケーションの仕方がわかってきたので、「神の目」という民芸品をつくったり、折り紙を教えたりするのも、割とスムースにできて、何人もの子と仲良くなれました。でも、後になって、この子たちも元々はストリートチルドレンだったと思うと、路上生活しているのが想像つかなくて、過去につらい経験をしていたということに、胸が痛かったです。

 私は、個人的に「オガーレス・プロビデンシア」の子どもたちやスタッフの教育や人柄、志が好きになりました。この施設の設立者のチンチャチョーマ神父さんの「愛が一番大切な権利だ」という言葉が、すごく好きですし、印象に残っています。他の団体では、子どもたちの親代わりになるのではなく、あくまでもスタッフとして接するというところがありましたが、「オガーレス・プロビデンシア」では、スタッフは子どもたちの親代わりとして一人ひとりの子どもを愛しているのが、子どもたちにちゃんと伝わっていて、そういうところが本当に素敵だなと思いました。

 ここの施設の子どもたちと遊んでいて気づいたのは、みんな仲がいいということです。ちゃんと譲りあったり、年上の子は年下の子の面倒を見たり、大家族を見ているようでした。子どもたちとスタッフの距離が近いのもいいなと思いました。プログラム・ディレクターのマリオさんも、少年のように子どもたちと対等に遊んでいるのを見て、さらにこの施設の良さがわかりました。

「プロ・ニーニョス」のスタッフとの路上活動も、すごく印象的でした。路上で出会う子は、今まで知り合った施設にいた子どもたちとは、見た目も態度も違うなと思いました。最初に訪れたところでは、トンネルの下に少年が2人住んでいました。少年は寝たまま、私たちと挨拶しました。辺りは異臭がしていました。少し怖くてどうやって関わればいいんだろうと思って、自分なりになるべくずっと笑顔を見せ、少年の隣に座るようにしました。ゲームをしてだんだん慣れてきてからは、施設にいた子どもたちと変わらない、純粋な少年だなと感じました。 

 施設の子どもと比較して、一番違うと思ったところは、私たちへの関心や集中力です。施設の子は向こうからどんどん話しかけてきて,スポーツをしている時もちゃんと私たちにパスを渡してくれるのですが、路上の子たちはこっちがゲームの楽しさを伝えなければ、興味がなくなってゲームをやらなくなってしまうので、集中力を続かせるのが難しいポイントだな、と思いました。

 もう1人会った女の子は、日本や私たちに興味がすごくあって、カードゲームも率先してやってくれました。私と好きな歌手が同じで、年も1歳しか違わなかったので、とても仲良くなれました。こんなに仲良くなれると思っていなかったので、うれしかったです。出会った路上の子どもたちが、私たちと関わったことで施設に少しでも興味をもって、路上生活を卒業してほしいと思いました。

 「カウセ・シウダダーノ」で聞いた若者たちの政治に対する思いも、とても印象に残っています。政治が変わることによってストリートの生活も大きく変わるであろうことが、よくわかりました。今年7月に実施された大統領選挙は、メキシコではすごく重要なイベントで、若者の投票率が高いという話に、驚きました。日本の若者と比べて政治に関心が強く、少しでも良い政治にしたいという気持ちが強いなと感じました。やはり日本は平和すぎて、私たち若者が何かしなくても誰かが政治をどうにかしてくれるという気持ちがどこかにあるから、なかなか政治を身近なものに感じないのだと思いました。

 話をしてくれた若者のひとり、ラウラさんが、「自分たちの国の未来は自分たちで決め、変えることは当たり前」と話したことは、その通りであり、また同時に難しいことでもあると思いました。これは日本でもメキシコでも同じだと思いました。メキシコの人たちは、麻薬戦争を止めてほしいと、今の大統領やその前の大統領に投票しましたが、実際にはなにも変わっていないらしく、政治を変化させるのはやはり難しいということが、改めてわかりました。私は、今までまったく政治に興味がなかったし、投票しに行こうと思ったこともありませんでしたが、ちゃんと投票に行こうと思いました。これからの時代を生きるのは私たち若者だから、政治に興味を持って関わっていかないと,ダメだと思いました。

 今回のツアーでは、初めてのことだらけで、みんなが体験できるわけではないことを経験できたことが、幸せでした。日本に帰ってきた今でも、ストリートの子どもたちは今なにをしているのかなと思ってしまいます。仲良くなりすぎて、別れが今でも寂しいです。NGOの活動にもすごく興味が持てて、これからも何かしらの形で関わっていきたいなと思いました。ストリートチルドレンのことを少しでも多くの人に知ってもらえるように、ゼミの発表において、また友だちにも、いろんな話をしようと思います!


 鈴木真代(現地在住)
[ツアーに参加したきっかけ]
 3つあります。(1)もともと大学時代(国際関係学専攻)に同じサークルだった友人が本ツアーに参加しており、学びが多かったという話を聞いたことがあり、メキシコに住むことになってから、いつか参加したいと思っていました。(2)夫の仕事の都合でメキシコに住み始めてから、仕事をしていない分、時間があったため、自分ができそうなボランティアを探してみたものの、語学のレベルやメキシコ人とのネットワークも少ないため、なかなかNGOの情報にアクセスするのが困難だったので、本ツアーに参加しメキシコのNGOについて知り、自分に何ができるのか知りたいとも思っていました。(3)今住んでいる外国人居住者の多いエリアでは、工藤さんが本に書いていらっしゃるような物乞いをしている子どもたちや路上で寝ている子どもたちを見ることは稀だったため、そういった子どもたちの現状やその周辺の社会課題について、自分の目で見ることができるのは、本ツアーに参加する最大の意義だと思いました。

[印象的だったこと]
1)暴力等の様々なトラウマを乗り越えようとする子どもたち
 普段メキシコに住んでいても、メキシコ人の子どもたちや青年に会うことが少なく、どんな雰囲気でどんな場所でどんな暮らしをしているのか、当初全く想像がつきませんでした。初日の「カサ・アリアンサ」での子どもたちと一緒に過ごした時間が、最も印象に残っています。女子グループホームでは、とてもあったかい雰囲気の中、笑顔で暮らしている少女たちに出会い、数ヶ月前にこのホームにたどりついた子たちが、辛い環境から脱して、回復しつつある状況を垣間見ることができました。男子グループホームでは、屈託のない笑顔の少年たちの表情を見て、色々と大変な経験をしているはずなのに、子どもらしい表情を取り戻せていることを考えると、急に涙が溢れてしまい、逆にこちらが元気をもらいました。

 「カサ・アリアンサ」に限らず、他の施設でも、男女どちらも、ふとした瞬間に、たまに表情が曇る子や、急に泣き出してしまう子を見ることがありました。きっと私たちには想像できないくらいの辛い道のりを歩んで、ここまでたどり着いたんだろうかと思うと、なかなか完治しづらい根深い心の問題を抱えているのかなと想像し、継続的な支援がずっと必要なんだろうと感じました。そんな子どもたちやスタッフの方々が、「こんな風に非日常を感じられる、外国人の皆さんの訪問があるだけで、少しでも嫌なことを忘れられるから、とても嬉しい」と言ってくれて、自分たちが簡単にできることがあったんだと気づきました。

2)子どもが楽しめる遊びの数々
 どこの施設を訪れても、言語や年齢に関係なく、人と人を繋ぎ、自尊心を向上させることができるような、面白い「遊び」を体験することで、子どもたちと交流することができました。子どもたちが施設に通うようになるモチベーションの源泉を理解できた気がします。「プロ・ニーニョス」のストリートエデュケーターと過ごした1日は、路上生活から脱出させるきっかけとして「遊び」を利用したアプローチをしていて、特に学びが多かったです。  

 例えば、路上で毛布にくるまって寝ている子どもに声をかけ、カードゲームを始めると、それまで朦朧として嫌がっていた様子が変わり、熱中して「ゲームに勝ちたい」という意欲が湧いてくる変化を間近で見ました。帰り際には、「また明日も来る?」と必ず確認するのが、子どもらしく、何かしらの人とのつながりや頼れる人からの個別のサポートを必要としていることを物語っていました。

3)ストリートチルドレンを支えるメキシコ人たち
 貧富の差の激しい国で、どんなメキシコ人が共助のために尽くしているのか、とても興味があり、訪問したNGOの職員たちに聞いてみると、代表理事として活躍する現役のビジネスリーダー、比較的恵まれた家庭に生まれ無償で働く女性活動家、NGOでの仕事を選んだ元政府職員、公的病院での勤務と並行して活躍する医師、長年同じNGOで活躍するカウンセラー、子どもたちの権利回復のため膨大な業務に奔走する弁護士、自分たちの通ったNGOで講師として活躍する若者などがいました。給与よりも仕事のやりがいを優先して、子どもたちのために尽くすメキシコ人に出会えたことは、メキシコの人権系NGOコミュニティがどんな方々で構成されているのか、実際に見聞きすることができ、貴重な機会になりました。

[これからのアクション]
 また来年もスタディツアーが開催されるようでしたら、参加したいと思いますし、メキシコの草の根で活動し、実績のたくさん積んでいるNGOを訪問することができたので、メキシコでの生活をする中で、自分も個人として貢献できることを検討・提案しながら、今後も彼らと関わっていきたいと思います。

(2018年10月発行のニュースレターNo285より)