オンライン学習会「児童虐待はなぜ起こるのか?」の報告 第1回

  運営委員・松永 健吾
  6月27日(日)午後2時からオンライン学習会「児童虐待はなぜ起こるのか?」を開催しました。休日の昼間の時間帯にも関わらず、23名の方が参加されました。3月末から約3カ月間にわたって、運営委員の仲間と一緒に準備をしてきました。今回の学習会を通して、ほかの運営委員の様々な経験と話を聞くことができて、とても良かったと思います。

 会には、子どもに関わる活動経験の豊富な人材が大勢いることに、改めて気づきました。私自身も多くの気づきや学びを得ることができました。学習会の内容を、何回かにわけて報告させていただきたいと思います。内容は、録画した学習会の音声を元に再現しています。

<総合司会>

 運営委員 松永 健吾

<発表者>

「児童虐待とは?児童虐待の現状について」  運営委員 松永 健吾

「児童相談所との連携から見えてきたこと」  共同代表 野口 和恵

「メキシコと日本で出会った子どもたち」   共同代表 松本 裕美

「妊娠・出産・育児から考える児童虐待」   運営委員 久野 佐智子

「実際に児童養護施設で働いていて」     運営委員 福田 利紗

<コーディネーター>

 共同代表 工藤 律子

●児童虐待とは?児童虐待の現状について 

 <松永健吾>

 まず、私の方から児童虐待の概略についてご説明させていただきます。

・児童相談所での児童虐待相談対応件数とその推移

 こちらの表は、過去30年間の児童虐待の相談件数の推移のグラフになっています。当初1,100件だったものが、平成2年度では20万件を超えています。約200倍に増えています。児童虐待のニュースが増えることによって、認知件数が上がっているというのもあるかと思うのですが、特にここ10年ぐらいは右肩上がりで増え、多い年は前年比20%以上増加していることもあります。特に最近、新型コロナで家庭に居る時間がより長くなっているので、児童虐待の数は増えていくのではないかと考えております。

児童虐待の定義

 児童虐待の定義は、4つに分類されています。まず身体的虐待、これは殴る蹴るですとか、火傷を負わせる、例えばタバコの火を身体に押し付けたり、アイロンを押し付けたり、風呂場で溺れさせたりといった身体的暴力を、子どもに与えることです。私が海外で実際に出会った少年は、ウンチを漏らしたことを怒った母親から熱湯を背中と肩にかけられ、大火傷を負いました。こちら(身体的虐待)の割合が、約25%になります。

 次に心理的虐待。これは無視したり、きょうだいの間で差別的な扱いをしたり、お前なんか生まれなかったらよかったんだといった暴言を吐いたり。子どもの目の前でDV、家庭内暴力を行うのも、子どもに精神的苦痛を与える行為です。

 次にネグレクト。これは「育児放棄」とも呼ばれていますが、家の中に閉じ込めたり、ベランダの外に締め出したり、食事を与えなかったり、ゴミ屋敷のような家に住まわせたり、自動車の中に閉じ込めたりといった行為になります。つい最近、北海道で、両親がパチンコ店に朝から晩まで入り浸っていて、その間、自宅に放置された4ヶ月の赤ん坊が亡くなったというニュースがあったと思うのですが、それもネグレクトにあたります。

   次に性的虐待ですが、子どもに対して性的行為を行ったり、見せたり、ビデオを撮ったりするような行為です。これは、子どもがそのことを性的虐待だと知らずに受け入れたり、子ども自身が声を上げにくかったりすることが多いので、見つかるケースは非常に稀です。ですから、児童虐待に占める割合は1.1%となってますが、実際にはもっと多いことが考えられます。

 以上の児童虐待は、保護者による子どもへの虐待で、学校なんかでのいじめは、この児童虐待に含まれておりません。今言った4つの虐待に関して、複数の虐待を一人の子どもが同時に受けるというケースもあります。

・児童虐待相談における主な虐待者別構成割合の年次推移

 次に、誰が虐待しているかという表(次ページ)ですが、実の母親と実の父親が、合わせて約9割になっています。実の母親が若干多いのですが、これは子どもといる時間が長い分、数が増えているのではないかと考えられます。あと妊婦さんの産前産後の鬱(うつ)も、児童虐待につながる一因と言われています。その問題については、後ほど久野佐智子さんの方から詳しくお話があるかと思います。

 片親から虐待を受けている場合だけでなく、両親から虐待を受けている場合というのもあります。そのほかのところで、両親以外の、例えば保護先の里親とか、児童養護施設の職員から虐待を受けるというケースも報告されています。

・子ども虐待による死亡事例

 児童虐待の死亡事例ですが、一年間に120名ほどがこれまで報告されています。私たちが普段、児童虐待のニュースを見るとき、そのほとんどは死亡ケースですので、私たちが目にしているのは児童虐待のほんの一部だということがわかります。

・児童虐待の通報窓口(オレンジリボン運動) 

 
こちらのポスター、「いちはやく」という児童虐待の通報番号があるのですけれど、ご存知の方はいらっしゃいますでしょうか?「オレンジリボン運動」と呼ばれています。「ピンクリボン運動」という乳がんの啓蒙活動を行う運動はとても有名だと思いますが、このオレンジリボン運動というのは、私もほとんど知りませんでした。189(いちはやく)という番号をダイヤルすれば、最寄りの児童相談所に繋がるという仕組みになっています。しかし、一般市民からの通報というのは極めて数が少なく、児童虐待の問題自体が長期間に渡って起きているということもあって、マンネリ化して認知度が下がっているのではないかと感じられます。

・参考図書

 下記は、私たちの会の運営委員で推薦した参考図書なのですが、この4冊どれもお勧めです。なかでも、私が一番お勧めするのは、2番目の「凍りついた瞳」という本です。これはコミック、漫画です。児童虐待を受けた子どもたちに会うことは、専門の職員とかでない限り、なかなか少ないなか、こういうコミックを読めば、虐待を受けた子どもたちや虐待している両親、支援をしている職員たちの心情などをリアルに知ることができるので、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

<参考図書>

1.『ルポ児童相談所 一時保護所から考える子ども支援』ちくま新書 慎泰俊(著)

2.『凍りついた瞳』集英社 ささや ななえ (イラスト), 椎名篤子(原著)

3.『子ども虐待は、なくせる』日本評論社 今一生 (著)

4.『子どもが語る施設の暮らし』明石書店  「子どもが語る施設の暮らし」編集委員会(編)

・市町村・児童相談所における相談援助活動系統図

 
これは、児童虐待の関連図です。左側に、子どもと家庭があります。真ん中に描かれているのが都道府県や市町村の児童福祉窓口になってます。その隣が児童相談所になってます。児童相談所から親との同居が危険であると判断された場合は、その右の里親とか児童養護施設などの保護施設に保護される形になります。右下は、親と引き離すことが正しいのかどうか、家庭裁判所で受ける審判を表しています。 

<工藤律子>

 松永さん、このままスライドを表示しておいてもらえますか?この後、4人のスピーカーに話してもらうのですけれど、野口和恵さん、松本裕美さん、久野佐智子さん、福田利紗さん、この図の中で自分はどこに関わっているのかということを、簡単に言っていただけますか?まず、野口和恵さんは。

<野口和恵>

 私はですね、元々いた所が市町村の福祉事務所の中で、子ども専門の相談員だったので、この市町村というところに該当するかと思います。

<工藤律子>

 点線に囲まれた輪の中ということですね。松本裕美さんは?

<松本裕美>

 私は、野口和恵さんが話していた市町村と連携しつつ、民間団体として居場所作りをしているので、その市町村の左側にあるところ、民間団体です。

<工藤律子>

 久野佐智子さんは?

<久野佐智子>

 はっきりと申し上げるのは難しいところであるのですが、民間団体での仕事を中心にお話させていただこうかなと思っています。

<工藤律子>

 福田利紗さんは、松永さんの話にあった右の児童養護施設ですね?

<福田利紗>

はい。

<工藤律子>

 わかりました。ありがとうございます

                            

                          ~ 第2回へ続く 

3・11甲状腺がん子ども基金シンポジウム 「原発事故と甲状腺がん 当事者の声をきくvol.2」に参加して <後編>

  運営委員 松永 健吾
 4月のニュースレターで「東京電力福島第一原発放射能漏れ事故」(以下「原発事故」)後に子どもの甲状腺がんが多発している事をお伝えしました。今回も引き続きそのことについて述べさせていただきます。

 私は、昨年12月に、熊本県水俣市の水俣病資料館を訪問しました。資料館は、水俣湾に面したエコパーク水俣という陸上競技場や野球場などがある広大な公園の一角にあります。(後から、その場所が汚染された海を埋め立てて作られた場所だと知り、ショックを受けました。)歴史は繰り返されると言いますが、原発事故後に子どもたちの甲状腺がんが多発している問題で、水俣病の時とまったく同じようなことが起きていることに、大変ショックを受けました。

 ご存知の通り、水俣病とは、熊本県水俣湾周辺の新日本窒素肥料株式会社(現チッソ株式会社)の化学工場から海や河川に排出されたメチル水銀により汚染された海産物を、住民が長期に渡り食べたことで、中毒性中枢神経系疾患が集団発生した公害病です。日本における高度経済成長期の負の側面である四大公害病の1つでもあります。昨年9月にジョニー・デップ主演の映画『MINAMATA―ミナマター』が公開され、今再び注目されています。当初は原因不明の難病とされ、周りの人々はうつるのを恐れ、患者やその家族は村八分にされて、家から外に出るなと言われたり、石を投げつけられたり、結婚や就職などにおいても差別を受けたそうです。当初から工場排水が原因ではないかと言われていたにもかかわらず、その後も工場はどんどん拡大され、工場排水が垂れ流され続けました。病気の原因が特定されるまでに、何十年ものの年月がかかりました。今回の原発事故後の子どもたちの甲状腺がんと水俣病は、まったく同じ構造のように思われます。東京電力とチッソ株式会社とが、重なって見えます。

 福島県の「県民健康調査」の検討委員会の中には、子どもの甲状腺がんの多発は「過剰診断」が原因だと主張し、検査を縮小させようと言う動きがあるそうです。福島の学校などでは、子どもたちの甲状腺がんは野菜不足と同程度の発がん率だと記載されたパンフレットが出回っていると言います。(一種のプロパガンダの様に思われます。)さらには、甲状腺がんやその患者の事を「風評加害」だと言う議員や学者がいるそうです。私は「風評加害」と言う言葉を初めて耳にしましたが、原発事故の「風評被害」を撒き散らす人のことを言うそうです。福島のイメージを悪くし復興を遅らせるとして、原発事故の被害を小さく見せようとする動きがあるようです。原発を推進しようとする人々にとっては、子どもの甲状腺がんが多発している事実が世の中に広く知れ渡ると、逆風が吹くからでしょう。しかし、甲状腺検査は甲状腺がんの早期発見に繋がり、子どもの健康にとって非常に大切なものです。経済を優先させるために子どもたちの命や健康が脅かされるようなことは、決してあってはならないと思います。

 今年1月27日、原発事故で放出された放射性物質により小児甲状腺がんを発症したとして、事故当時6~16歳で福島県内に住んでいた男女6人が、東京電力に計6億1600万円の損害賠償を求める訴訟を、東京地裁に起こしました。これまでの水俣病患者や原爆被爆者などと同様に、裁判には何十年もかかることが予想されます。東京電力をはじめ、政府や福島県は甲状腺がんになった子どもたちの支援を早急に行うべきだと思います。(甲状腺がんの手術費用や治療費などの経済的支援や、多くの不安や悩みを抱える若者への心理的な支援など。)

 東日本大震災、原発事故から11年が過ぎ、人々の関心が薄れてきています。しかし最近になって、子どもたちの甲状腺がんが多発している事実が徐々に明らかになってきました。水俣病の場合と同様に、被害を受けた人々は差別や偏見を恐れて声を上げにくく、泣き寝入りすることがほとんどです。こうしたことは誰にでも起こり得る問題で、私たちの社会全体の問題だと思います。まずはきちんと知ることが重要です。そして何よりも、甲状腺がんになった子どもたちに寄り添い、思いを寄せることが大切ではないかと思います。私たち一人ひとりがこれからもずっと関心を持ち続けることが、政府や福島県、東京電力などを動かす力になるのではないかと思います。

 下記の<ご参考>欄の当事者アンケートの報告書には、当事者からのメッセージも掲載されていますので、よろしければぜひお読みになっていただけると幸いです。

<ご参考>

3・11甲状腺がん子ども基金のホームページ
https://www.311kikin.org/
『原発事故から10年 いま、当事者の声をきく―甲状腺がん当事者アンケート 105人の声―』(A4版96ページ、2021年10月15日発行 価格:1,000円 PDF版は下記の3・11甲状腺がん子ども基金のホームページから無料でダウンロード可能です。)https://www.311kikin.org/wp-311kikin/asset/images/pdf/questionnaire2021.pdf