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ニュースレター

Hikikomori = ひきこもり

2016/05/28 08:17:00 ニュースレター
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ストリートチルドレンを考える会

 共同代表・松本裕美

 

僕は現実に向き合うことにしたよ だから可愛い子が来たらすぐにおしえてね

                                             by Quino

 これは、アルゼンチンの漫画家Quino(キノ)が描いた社会風刺漫画「マファルダ」の中に出てくるセリフ。そんなセリフを文頭に載せたひきこもりについての記事を、知人であるメキシコ人が書いている。

 知人の名はホセ・ロベルトさん。精神分析を専門とする心理士として診療をする傍ら、仲間たちと心理療法をテーマにしたインターネットサイト(www.psic.mx)をつくっている。一般的なものから専門的なものまで、自分たちの学びや経験をシェアするために、ボランティアでこのサイトを立ち上げ、運営している。青年期の危機をテーマにした回で、ロベルトさんはひきこもりについて書くことにした[1]

 今年初め「ひきこもりについて記事を書いたから、話を聞かせて欲しい」と、共通の友人を通して声をかけられた私は、メキシコのストリートチルドレン支援施設で働いていた経験から、家出をして路上や安宿、施設で暮らす子ども・若者たちの現状は知っているものの、ひきこもりについてはメキシコで耳にしたことがないため、そういった現象はメキシコにあるのか?そして、そもそもなぜロベルトさんはひきこもりについて書こうと思ったのか、興味を持った。

 彼の記事には、次のようなことが書かれている。

 ひきこもりという表現は、1998年に精神科医の斎藤環氏によって生み出されたもので、hikikomoriという名詞で他の国でも知られていて、スペイン語圏では「閉じこもる」、「自分自身で閉じこもる」と訳されていること。1990年代初めに日本で見られるようになり、その後、オマーン、韓国、インド、スペイン、イタリア、アメリカ合衆国そして中南米など他の国へ広がっていったこと。日本にはひきこもり状態の人が120万人、ラテンアメリカには100万人以上いると推測されていること。ラテンアメリカにおいて、ひきこもりは新しい現象ではあるが、急速に定着していっていること。日本の場合、世間体を気にする家族によってひきこもりの実態が隠されていることもあるため、実態は定かではないこと。男性に多く見られ、特に長男で青少年期の初期にひきこもり現象がみられやすいこと。

 スペインのバルセロナにある病院、神経精神医学・依存症研究機関がスペインで行った調査によると、ひきこもり164人中、平均39.3ヶ月、長いケースだと30年ひきこもっていたというケースがあり、彼らの多くが情動障害などの精神的な症状を呈していて(74.5%)、34.7%が精神異常、22%が不安症で、その中の39.3%が精神科に入院したことがあり、60%の人の家族のあいだで同様の症状が見られたという。こうした結果から、東洋以外の国では、ひきこもりを「健康問題」として捉え、スペインでのひきこもり増加を警告している。ひきこもりは日本に限らず、先進工業国で起こっていること。その背景には超近代化というものがあり、過剰資本主義や過剰階級、超テロリズム、超個人主義、過剰な売買など、何もかもが過剰であることが影響しているのではないかと書かれている。

 ロベルトさんがひきこもりについて調べるようになったきっかけは、数年前、彼の診療所を訪ねてきた1人の少年との出会いにある。その少年は、社会との接触を避け、自分の部屋にこもっていた。特に、将来について過度な期待をしてくる両親との接触を避けていた、とのこと。この出会いをきっかけに、ロベルトさんはひきこもりについて調べるようになっていき、そこで日本のひきこもり、スペインやラテンアメリカのひきこもりについて知っていったという。実態を知っていくうちに、若者たちに広がりやすいものだと考えるようになったと、話している。

 日本のひきこもりの社会的要因を調べていくことで、いくつかは日本文化独特のものから来ることがわかったが、その他にはスペインやラテンアメリカなど工業化の進んだ国で生きているがゆえの共通点が見えてきた。多くの若者が、既存の教育システムからこぼれ落ちたり、失業中だったり、仕事はしていても不安定な労働環境や収入条件にさらされていて、安定や安全というものがない状態にいる。競争やわずかな雇用というように、今の若者が生きる状況は容易ではない。こういった状況から、若者が自身でひきこもっていくということは、理解できると思ったという。さらに超近代化の中で、「常にもっと」という傾向がある社会において、効率性、生産性、順応力がいつでも要求されているなか、大人によって作られた支配的な世界への抗議としてひきこもり、社会的に孤立するという状況が、西洋ではみられているとも考えている。この超近代社会に適応するよりも、部屋に閉じこもることを望む。支配的な価値に対して疑問を持ち、大人になることに抗ったり、繰り返し反乱したりする時期が、青少年期の特徴でもあると、ロベルトさんは言っている。

 ここ数年、私は日本で若者たちと一緒に活動をしている。その中には数週間からときに10年以上、ひきこもっていたという若者が多くいる。そこで出会った若者の何人かは、何でも最初から完璧にできていないと社会に出ていけないと考えて、身動きがとれなくなっている。また、効率性や生産性を常に求められ、自分が育っていけるような補助がない職場経験を通して、自分はやっていけないかもしれないと不安になったり、そんな社会でいいのだろうかと疑問をもったりする若者たちがいる。そんな若者たちの声をきいていると、超近代化、そして超資本主義がひきこもりを生む社会と関係しているという考えに、私自身も頷ける。私が出会ってきたひきこもりを経験した若者たちの多くは、安心できる関係性や場に出会っていったことで、またはその関係性や場をつくっていく経験を通して、人とつながっていきたいと思っている。

 ロベルトさんは記事をふりかえり、ひきこもりは日本内外でも、より一層広まってくるだろうと話している。ただそれは、必ずしもマイナスなことではなく、新たな青年期構築の方法として自ら閉じこもることで、そこから新たに人とつながりをもつ意識が生まれるかもしれない、とも話している。「ミレニアム世代」と呼ばれる現代の若者世代は、自分たちが継承した世界についてより理解していて、彼らの多くは自身のプロジェクトに取りかかるための探索をしたり、起業したりする方向に動いている。また、ひきこもりという抗議自体が、他者との関係性や環境保護のための新たなパラダイムになるかもしれないとも思う、と話している。


[1]
            (スペイン語記事はネットを参照してください;HIKIKOMORI” O AISLAMIENTO SOCIAL EN LA ADOLESCENCIA: UNA RESPUESTA A LA HIPERMODERNIDAD EN OCCIDENTE 「青年期におけるひきこもり/社会的孤立:西洋の超近代化がもたらしたこたえ」)

 

(2016年4月発行のニュースレターNo255より)