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この本をお勧めします!工藤律子著「雇用なしで生きる」(岩波書店)

2016/03/18 13:45:06 ニュースレター
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ストリートチルドレンを考える会

紹介者・野口和恵

 

 「雇用される」=「組織に雇われる」ことだが、日本では働くこと、生活の糧を得ることと同義で使われることが多いように思う。私の周りには雇用なしで生きるフリーランスの友人が割と多いが、日本全体から見れば特殊であるし(日本国内で自営業者は労働人口の約1割だという)、収入面では厳しいものがある。雇用ありきで生きることが主流であるから、選挙になれば「雇用の創出」を掲げる候補者に票が集まるのかもしれない。けれど、雇用の機会を得ることは、必ずしも幸せな生き方が約束されるものではないように思う。ブラック企業の過酷な労働で心身をぼろぼろにしてしまう人や、やりがいとはほど遠い仕事にジレンマを抱えながらやり過ごしている人もいる。

 

 本書は、共同代表の工藤律子さんが、同名のスペイン語の書籍にヒントを得て執筆したものだ。失業率が一時30%近くを記録したスペインで、市民から生まれた社会変革運動について書かれている。それぞれが得意とする技能を使って助け合う時間銀行はじめ、物々交換、地域通貨、フードバンクなど、お金がなくても生きていけるようにするための取り組みが、数々紹介されている。どの取り組みにも共通するのは、コミュニティの連帯や人と人とのつながりをベースに成り立っていることだ。

 

 あらためて「お金」というものを見直してみると、それは物やサービスを効率よく手に入れるツールといえるかもしれない。現代は、お金さえあれば、ネット通販で誰と接することもなく、家から出ることもなく、快適な生活を送ることも可能だ。しかし、お金がないときは、人とのつながりなしには生きていけない。それは、当会と関わりの深い、フィリピンやメキシコのスラムを見てもわかる。食事を分け合ったり、物の貸し借りをしたり、そんな助けあいが当たり前のように残っている。それらの国にくらべれば、今なお経済大国といえる日本で、介護疲れから心中を選んだ老夫婦や、餓死してしまった親子のニュースが報じられるのはなぜか、真剣に検証する必要があると思う。

 

 また、お金はいつでも万能なわけではない。東日本大震災のあとは、関東地方でもスーパーの商品棚がガラガラになった。極限の状況では、貨幣が役に立たなくなることを実感した。あれから5年が経過した。被災地のために寄付が寄せられ、政府も復興のために多額の予算を組んだ。お金を媒介とした支援は、不可欠であったかもしれないが、先日お会いした被災者の方は、たくさんのボランティアが来てくれたことや、今も東北を忘れないでいる人の存在がうれしいとくり返し、涙ながらに語っていた。

 

 この4、5年、原発再稼働、安保法制に対して、「それは、おかしい」と声をあげる人が増えている。本書にも記されているスペインの市民運動と通じるものがあるかもしれない。しかし、いま日本では、原発の再稼働や武器輸出に反対すれば、決まって「それでは経済が回らないよ」という反論が返ってくる。そういう人にこそ、この本を手渡し、読んでもらいたい。けれど、それだけでは、まだまだ不十分だ。というのは、本書に登場するしくみは、政府やだれかが与えてくれるものではなく、ひとりひとりの行動とつながりによって、実現するものだからだ。

 

 本書のヒントとなった、スペイン語版『雇用なしで生きる』の著者であるフリオさんは、「国家だけでなく、世界全体で人々に最低限の生活と社会生活を保障できるような、広範なコミュニティ意識を育てることが世界を救う鍵になる」と言う。

 

  スペインで少しずつ形になっている「もうひとつの生き方」を、絵に描いた餅にしないように、日本の私たちも考え、行動していきたいと思う。

(2016年3月発行のニュースレターNo254より)