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ニュースレター

NGOカウセ・シウダダーノ(Cauce Ciudadano.A.C.)を訪ねて

2016/01/30 11:32:37 ニュースレター
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ストリートチルドレンを考える会

 共同代表・松本 裕美

 冬休みでメキシコを訪れている。1月5日(火)は、とても刺激的で興味深い一日を過ごした。

 この日は、メキシコシティの北に位置するグスタボ・ア・マデロ地区の南部にある地下鉄コンスラード駅から歩いて数分のところにある、コミュニティ・ユースセンターを訪ねた。このセンターは市民団体カウセ・シウダダーノ(Cauce Ciudadano)が運営している。(当会メキシコツアーの訪問先の一つ。)

 この市民団体は、かつてギャングだったカルロス・クルス氏が2000年に設立。彼は子どもの頃から暴力的な環境で育つ中で、暴力を使い生きることを学んでいった。青少年期にジェンダー暴力で苦しんだ経験をもつ。自身の経験からあらゆる暴力と決別して、暴力をなくすために行動していくことを選択する。そしてギャング仲間らに違う生き方ができることを少しずつ話していき、2001年からその理念に賛同する元ギャング仲間らとともに、自身の家族がもつ土地と建物を利用し、地域発展のためのユースセンターを開始した。それは、社会に参画していく若者たちが、経済的理由や生まれ育つ環境によって、創造し行動していくチャンスを奪われることなく、暴力とは無縁な関係性や困ったときにも問題に立ち向かえる力を養いながら成長していけるような場を育くむことだった。現在メキシコシティやその郊外のほか、メキシコ国内の複数の場所で同様の活動を行っている。

 今回私が訪れた地区は、メキシコシティの中で1、2を争うほど人口が多い地区で、メキシコシティの人口の約10%にあたる1,185,772人が暮らしている。その内の25%を15〜29歳が占める(:メキシコ国家統計地理情報局 2010年データ)。地域調査を行った施設スタッフの話によると、隣接している町では、薬物や武器の売買がされており、性暴力や殺人事件など、暴力事件が多発しているということだ。部外者が歩くと異様な雰囲気が、部外者にも住民たちにもすぐにわかるという。そんな地区に多くの子ども、若者が住んでいる。現在センターではこの地区に住む若者たちとの活動に特に力を入れていると話していた。

 同団体はこうした調査を行うほか、地域の中で若者が集う場所に赴いて関係性を築き、上手く行けば若者たちが希望する活動を一緒に行い、その後このセンターの紹介をする。また、学校や公的青少年施設を訪ね、ジェンダー暴力やレジリエンス(精神的回復力、抵抗力)についてなどのワークショップを行ったりセンターの紹介をしたりと、連携活動を行っている。

 センターは14歳から29歳までの若者に開放されていて、調理、ラップ音楽、大道芸、グラフィックアート・版画、ラジオ・映像、パソコン、壁画などのクラスがあり、参加したいコースを選ぶことができる。調理の基礎を学ぶ2時間1回完結のものから、基礎からCD制作までの行程を含むラップ音楽コースのように6ヶ月間実施されるコースなど、様々なコースがある。メキシコの学校は午前からの部と午後からの部にわかれているため、授業時間とかぶらないように幾つかの実施時間帯が用意されている。

 私が今回このセンターを訪問した動機は、ここではメキシコ文化のなかでも私が好きな「壁画活動」を若者たちとしているので、ぜひともその現場を見てみたかったということと、現在私が働くユースセンターとの共通点もあるだろうから、どのような働きかけをしているのか、利用する若者たちの反応はどんなものなのかを知り、今後の活動に活かしていきたいという、2つだった。そんなことで施設訪問を受け入れていただいた。案内をしてくれたのは、社会心理学を勉強したエレーナさん。学生の頃からこの団体で社会奉仕活動をし、現在はスタッフとして働いている。

 私の質問に丁寧にそして熱心に応えてくれ、同じような活動をする者同士協力し合っていきたいと、気づくと2時間以上センターおよびその周囲の案内をしてくれた。あいにく現在は事務手続きの時期で、若者たちとの活動は2月に再開するということだった。とはいうものの、料理、パソコン、録画、版画および印刷、ソーシャルサーカス、ラップのクラスが行われる部屋を案内してくれた。

 興味深いと思ったのは、ペットボトルを5本持ってくることで若者たちはクラスに参加することができるということ。もう一つは、全ての部屋に参加メンバーで作った約束事が貼ってあるということだ。

 参加条件なしにクラスを受けられるようにすると、時に要求がエスカレートしたりするが、お金ではなくペットボトルをひろって持ってくるという行為を1つ挟めば、物々交換に似たような意味あいが生まれるし、それだけ多くのペットボトルを自分たちの社会が消費していることを知ったり、どうリサイクルしていくのかという環境問題を考えたりする機会にもなり、視野が広がることがねらいだ。

 約束事については、各コースを始めるときに参加者らが、どんな環境で活動をしたいかを話し合う。その結果、安全で整理整頓され、安心できる環境になるような約束事が、どのコースの部屋にも書かれていた。

 それぞれのクラスはファシリテーター1人が担当するが、前もって活動計画を提出し、コーディネーターらと活動の目的やどんな方法でその目的を達成させるのかなどを話し合い、準備をしている。そして毎回セッションが終わるたびに、日誌を書く。一緒にふりかえりを行い、時に介入方法や参加する若者の状況を分析する。   

 活動は、必ず教育学的要素と結びついている。印象的だったのは、各ファシリテーターはそれぞれの専門分野については詳しいが、薬物や暴力などの問題が起きた時の介入方法などについては詳しくないため、前もって学ぶ時間をとるようにしているということ。つまり、ただ単に技術を得ることが目的ではない、ジェンダーの平等とレジリエンス、非暴力というエッセンスが、どのクラスにも入るように働きかけている。例えば、版画・印刷クラスで、マチスモ(男性優位主義)的考えが強い少年が、女の子と一緒に作業をしたがらない時は、なぜ?から話を展開していく。自身の中にある偏見に気づくこと、そしてその根源を一緒に探っていくことを大切にしている。また、色の使い方1つとっても、ピンクや黄色は女の子の色だからと言って敬遠する少年がいる場合には、それらの色を混ぜ合わせることで可能性が広がることを、技術と知識をもつファシリテーターが伝えていく。そうしていくことで、差別や偏見により制限されていた視野が、広がっていっているという。

 私のセンター訪問動機のひとつである壁画活動は、今回残念ながら見ることができなかったものの、若者たちが描いた幾つかの壁画を見せてもらった。

 彼らが描いた壁画を見たセンターの横向いの住民から、「家の壁にも描いて」と声がかかって描いたり、同地域にある小学校の壁に描いたり、センターの建物以外にも彼らの壁画が存在することが、地域に色と活気を生み出している。小学校の壁にはメキシコの伝統的な神などの絵が、3人ほどの若者の手によって描かれた。学校に子どもを通わせる親たちは当初良い反応を示さず、なんでそんなことをするのかといぶかしがっていたという。若者たちの活動に必ず同行しているファシリテーターがその後、活動の意味を根気強く説明していったことで、親たちは理解を示し、自分たちの子どもをセンターに通わせたいと言ってくるほどになったそうだ。

 センターの入り口にある壁画は “IGUALDAD”(平等)と、手話のような手の動きで描かれている。「非暴力の日」について話し合った若者たちが、独創的で興味深い壁画を完成させた。手の動きはギャングの間で使われている表現だそうだが、タトゥーをしている手、先住民の手、ロザリオ(教会でお祈りをするときに使う数珠のようなもの)を持っている手、マニキュアや指輪で飾られた手など、様々な手が「平等」を表現している。

 壁画チームと版画・印刷チームがタッグを組んで、壁画のTシャツを作って販売したりもしている。そういった若者たちの営利活動のためにも、センターは無料で場所を提供している。先ほどの壁画がある小学校の目の前は交通量の多い道路のため、彼らの絵は多くの人の目に触れる。また、版画・印刷チームが作ったしおりやジェンダー暴力撲滅のステッカーなどの作品も、人々の目に触れ、手に届くように工夫された形で、活動が展開されている。ただ壁画制作技術を学ぶだけではなく、若者が経済的な意味や社会的な意味を感じることのできる仕事を身につけることに結びつく活動になっているところが、とても魅力的だと感じた。

(2016年1月発行のニュースレターNo252より)