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ニュースレター

ドキュメンタリー上映会報告/日本の貧困と「pobreng mayaman」の世界

2015/01/14 15:10:05 ニュースレター
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ストリートチルドレンを考える会

運営委員・野口和恵

フィリピンのテレビ局GMAの番組「I witness」で放送されたドキュメンタリーで、「pobreng mayaman(貧しく豊かな人)」という作品の上映会を開いた。舞台は、スモーキーマウンテンがあるマニラ最大のスラム。登場するのはフィリピンの最貧層の人たちだ。映像の中心人物エリーは、困っている人を見ると放っておけないという性分の女性。食べ物がなく困っている人には米を買ってやり、夫を亡くした女性には葬儀の準備を手伝い、病気の子どもには薬が手に入るように手配してやる。そんなエリーから親切にしてもらったジョシーもまた、見返りを期待することなく人のために尽くし、その周りの人たちもまた…と、助け合い、生活しているコミュニティの様子が描かれている。

 

上映会のあとの座談会では、実際のスラムの実状とのちがいや、フィリピン社会がかかえる問題、メキシコを含めたスラムの住民運動について話が展開されたが、その場をここに移して、足元にある日本の「貧困」についても、振り返り考えてみたいと思う。

 

2009年の厚生労働省の発表によると、日本の子どもの相対的貧困率は15.7%。6~7人に1人の子どもが貧困状態といわれている。中塚久美子著「貧困のなかでおとなになる」によると、2008年の厚生労働省の調べで、保険証がない無保険の子どもたちは、32,000人以上にのぼっているという。病気になっても、経済的理由から、医療にかかれない子どもが相当数いると考えられる。

 

また、生活保護世帯の子どもの進路を見ていくと、高校進学率はほかの世帯の子どもの高校進学率より約10%低い。公立高校では、授業料の無償化以前、学費の減免申請をすることができたが、減免申請者が多い学校ほど、中退率が高いという傾向があった。経済的な困難から高校生活をあきらめる子が多く、それが貧困の再生産につながっている。

しかし、こうした数値を聞いてもまだ、日本で子どもの貧困が広がっているという実感は持てないかもしれない。大人の路上生活者はすでに都市部の日常的な光景になってしまったかもしれないが、ストリートチルドレンのように路上に寝泊まりする小さな子どもに会うことは、めったにない。※

 

私がフィリピンの話をすると、「なんだかんだいっても、フィリピンにくらべれば、日本のほうがずっと恵まれていますよね」という反応が返ってくることがよくある。だけれど、日本の貧困については、フィリピンとはちがった、「実感がない」からこその肌寒さをおぼえる。

 

4月27日に放送された、NHKスペシャル「女性たちの貧困~“新たな連鎖”の衝撃~」では、ネットカフェに長期滞在する女性たちの姿が報道された。

 

そのなかには2年半にわたって、ネットカフェで生活している母と二人の娘がいた。シングルマザーの母は准看護師として働いていたが体調をくずして、家賃を払えなくなり、ネットカフェにたどりついた。3人はひとりずつ別々のブースを借りている。19歳の長女はコンビニでアルバイト、次女は中学生だが、半年以上学校に行っていない。食事は、1日1食、長女が買ってくるパンのみ。1日の大半を、パソコンをながめて過ごす。

 

母親が元気だったころに長女が書いたという作文には、母がいっしょうけんめい働いていること、そんな母を尊敬していること、将来母を楽にさせてあげたいという思いがつづられていた。

 

見ていて、「これほどまでに追いつめられているのに、なぜ生活保護を申請しないのか?」という疑問が浮かんだ。フィリピンで日本の生活保護の話をすると、「なんて日本はやさしい国なの!」という反応がかえってきたものだ。番組では特にそれに触れていなかったのだが、この母子に限らず、最低基準を下回る生活をしていても、生活保護を受けていない世帯は多い。日弁連の資料によれば、生活保護の対象となる人のなかで、実際に制度を利用している人は、2割にすぎないという。自己責任論、生活保護バッシング…、目に見えない空気の流れが、彼女たちをネットカフェに閉じ込めてしまったのだろうか。

 わずかな生活の糧を得るために、コンビニのアルバイトに行く長女。だが、彼女から弁当を買う人たちは、目の前にいる少女の事情など気づくこともないだろう。

 

私自身も今、貧困のなかで育つ子どもと関わる仕事をしている。貧困から孤立に陥ることは、日本のなかではめずらしいことではない。頼りになる地域、行政の人々と子どもをいかにつないでいくかをいつも考えているところだ。

 

そうした視点から「pobreng mayaman」を見返すと、親しみを感じ、励みに思う。カメラのフレームの外には、「豊かさ」の欠片さえないかもしれない。しかし、その中で、人と人がつながり、助け合いの循環を生み出しているエリーたちには、私たちも学ぶところがおおいにあるのではないか。

 

※日本の路上で暮らす子どもについては、フォトジャーナリスト権徹(ゴン・チョル)氏が「歌舞伎町のこころちゃん」(講談社)という本にまとめています。

 

(2014年5月発行のニュースレターNo232より)