メキシコの高校から メキシコで高校教師をしている友人に、新型コロナ・パンデミックの影響を聞く

共同代表・松本 裕美(NPO職員)

松本/自己紹介をお願いします。

みなさん、こんにちは。私は、カレン・マラゴン・カルデロンと言います。メキシ コ国立自治大学で社会学を学び、今、ちょうどメキシコ史教育の修士号を取得してい るところです。同時に、メキシコ国立自治大学の科学人文科学部付属高校の教員をし ています。教員になって12年になりますが、メキシコの歴史、世界史、政治学を担当 しています。その中でも、メキシコ史を教えるのが一番好きです。

松本/パンデミック前後での授業スタイルの変化について、教えてください。

メキシコ史を教えるのが一番好きだと話しましたが、それは生徒たちが、単に暗記 するのではなく、どうしたらメキシコの現実に対して、歴史的、分析的、批判的認識 を持てるようになるかを探りながら授業をしているからです。 パンデミック前は、基本的にワークショップ形式で授業をやっていました。生徒た ちが、校内の図書室でそのテーマに関するものを読んだり調べたりするようにして、 インターネットの使用は稀に許可するくらいでした。その後、授業の中で課題を発展 させ、最終的にテーマに関して議論をします。生徒たちはグループに分かれて、チー ムで協力して学習していくようにしていました。そうする中で、彼ら一人ひとりが、 問題をどう捉えているか自分の考えを表出し、歴史的事実と現在を比較しようとして いたので、私はその時間がとても好きでした。 パンデミックになり、状況は大きく変わりました。すべてオンライン授業になり、 生徒は物理的に図書室に行けないため、インターネットでの調査を許可するしかあり ませんでした。それによって、生徒たちは最初に見た情報を鵜呑みにしたり、間違っ た情報を得てしまったり、ということがありました。そんな状況だったので、後期の 2021年2月には、私自身が必要な情報を選択して、それを生徒に送ることにしました。 オンライン(ビデオ通話)でテーマ学習をする際、「携帯にその機能がない」、「カ メラが機能しない」などの理由で、カメラをつけない生徒が複数いたので、コミュニ ケーションをとるうえでも一苦労しました。参加したくない、という生徒も多く、励 まし、呼びかける必要がありました。 加えて、残念ながら、生徒たちは参加したがらないために私だけが話している、と いう状況が、担当するすべてのグループでありました。彼らが授業をきちんと聞いて いるのか、ただ入室しただけで誰も聞いていない中で私一人が話しているのか、わか らないこともあり、正直、フラストレーションがたまりましたね。

松本/この前、いよいよ対面授業が始まると話していましたね?

今年2月からの下半期が5月に終了するところで、状況は少し変化してきています。 ついに、ハイブリッド授業が始まりました。ハイブリット授業は、バーチャル参加と実際に教室に来る生徒を半々にした授業で、それにより、テーマに関して話し合うこ とができるようになってきました。すべての生徒が教室にいるわけではないですが、 やっと生徒たちと直接会って、互いを知ることができるようになったので、とても嬉 しいです。今、彼らは、学校でやりたかったことをしていますよ。それは単に授業に 参加するだけではなく、仲間や教員たちと一緒にすごすことです。

中高生もいよいよ教室に戻ってきた。(現地紙El Financiero掲載写真)

松本/カレンさんや生徒たち、教員たちの間で、変化したことは?

難しいことがたくさんありましたね。経済的に困窮している生徒たちが、コミュニ ケーション手段になる通信機器を持っていなかったり、経済的理由や家族の病気、家 族が亡くなったという理由で、学校をやめた生徒もいました。生徒や教員の中には、 孤立したことで鬱になった人たちも。 家庭内暴力の問題もありました。今まで表面化していなかった問題が可視化された とも言えますが。決定的に大きな変化は、24時間、共に家族として生活していた大切 な人たちと、「一緒に暮らすことを学んだ」ということでしょう。また、テクノロジー に依存してリモートで活動しなければならない暮らしでは、失敗も多々ありますね。

松本/この期間を経て、カレンさんが思うことは?

教員として、生徒たちにより共感できるようになったと思います。生徒たちは、ア ドバイスや問題解決を必要としているわけではなく、ただ誰かと話したいだけという 時もあることを知りました。 一方で、私は生徒を助けたいと思っています。生徒たちの学習や家族の問題につい ても状況を知っていますが、本人が私たちの助けを求めないならば、ただ話を聞くこ とが肝心。そして、彼らが必要な助け、知識を得られるように、私たち教員は努力し ていくことが大切だと思います。いくら私たちが必要性を訴えても、生徒自身がそれ を身につけたいと思わなければ、意味がないですからね

♥︎オンライン学習会「児童虐待はなぜ起こるのか?」

 2000年に児童虐待の防止等に関する法律(通称:児童虐待防止法)ができましたが、それ以降も児童虐待の相談件数は年々増加しています。(令和2年度は20万件以上/厚生労働省。)大きな社会問題になっているにもかかわらず、十分な対策が取られていないのか、痛ましい児童虐待の報道が絶えることはありません。

 児童虐待は、「ストリートチルドレン」の問題とも大きく関わっています。児童虐待はなぜ起こるのか?その背景や現状、問題への対応について、関心のある皆さんと、意見交換をしたいと思います。ぜひご参加ください。


6月26日(日)午後2:00~3:30
 (終了後、懇親会があります。参加は自由です。)

参加費:無料
<スピーカー予定者>
工藤 律子
ストリートチルドレンを考える会共同代表。ジャーナリスト。著書に「ストリートチルドレン メキシコシティの路上に生きる」他、多数。

松本 裕美
ストリートチルドレンを考える会共同代表。メキシコの青少年支援NGO5年勤務。現在日本のNPOにて子ども・若者支援。

野口 和恵
ストリートチルドレンを考える会共同代表。ライター・編集者・社会福祉士。著書「日本とフィリピンを生きる子どもたち ジャパニーズ・フィリピノ・チルドレン」。

福田 利紗
ストリートチルドレンを考える会運営委員。小規模住居型児童養護施設スタッフ。

久野 佐智子
ストリートチルドレンを考える会運営委員。看護師・助産師。現在、JICAエルサルバドル事務所勤務。

申し込み&お問い合わせinfo@children-fn.com
タイトルに学習会と書き、氏名、連絡できるメールアドレスをお送りください。

※申し込みは、イベント前日までにお願いします。 前日にはZOOMリンクをお送りします。
※後半に質疑応答などの時間を設けさせていただく予定です。その後、そのままフリートーク(懇親会)の時間となります。参加は自由です。このテーマに限らず、「ストリートチルドレン」を含む子どもたちの問題について、当会メンバーらとさらに議論を深めたいという方は、ぜひご参加ください。

主催:ストリートチルドレンを考える会
http://children-fn.com/

<参考図書>
1.「ルポ児童相談所 一時保護所から考える子ども支援」ちくま新書 慎泰(著)
2.「凍りついた瞳」集英社 ささや ななえ (イラスト), 椎名篤子(原著)
3.「子ども虐待は、なくせる」日本評論社 今一生 (著)
4.「子どもが語る施設の暮らし」明石書店  「子どもが語る施設の暮らし」編集委員会(編)