オンライン交流/路上で、施設で。メキシコの子どもたちの今を知る 


11月は、共同代表の工藤律子(ジャーナリスト)と運営委員の篠田有史(フォトジャーナリスト)が、メキシコでの取材の合間に、現地NGOのスタッフとともに、メキシコシティの路上にいる、あるいはNGOの定住ホームで暮らす子ども・若者とのオンライン交流を実施します。

仮日程は、下記の通りです。子どもたちやスタッフと直接話せるイベントに、ぜひご参加ください。(参加無料)

 ストリートエデュケーターと路上を巡る11月6日(土 午前8:30~10:00 

 定住ホームで暮らす子どもたちと出会う11月27日(土)午前10:00~11:30 
    ※メキシコとの時差の関係で午前中に開催します。お間違えなく。

 ★現地の都合で、日時が変わる可能性もあります。詳しくは、会HPやFacebookで確認するか、会へメールでお問い合わせください。

申し込み・問い合わせ info@children-fn.com へイベント名と氏名、連絡できるメールアドレスをお送りください。 
※申し込みは、必ずイベント前日までにお願いします。
前日にはZOOMリンクをお送りします。

「今は、昨年以上の厳しさ」

 NGO「カンルンガン ・サ・エルマ・ミニストリー」と
NGO「オリン・シワツィン」 近況報告

私たちは、現在のメキシコシティとマニラ首都圏の状況を考慮し、昨年から続けている上記2団体への緊急支援を、今年12月まで継続することにしました。そこで、彼らの近況をビデオ通話で聞いた内容を、ここで報告します。

報告者・工藤 律子(共同代表)

●フィリピン(マニラ首都圏) NGO「カンルンガン ・サ・エルマ・ミニストリー」

 
9月4日(土)、代表のソルさんと路上チームのリーダーでソーシャルワーカーのウィルマールさんが、現状を話してくれました。

[マニラの路上の様子]

  政府は、パンデミックが始まって以来、原則として路上生活を禁止しました。ストリートファミリーやストリートチルドレンを「レスキュー・センター」と呼ばれる所に集めて、そこで生活するように指示しています。バスケットボールコートにテントなどを設置した場所です。食事や水などは、一応、政府が提供していますが、あまりに大勢の人がいるため,十分な量ではありません。足りない分は、複数のNGOが届けており、私たちも時々、お弁当を配布しています。センターに行きたくない人たちは、近くのコミュニティ(スラム)の許可を得て、その路地裏で生活しています。

 路上生活者の間には、新型コロナに感染している人がいると思います。しかし、症状が出ても、大抵は病院に行きません。今は、重症患者しか看てくれないからです。感染した可能性があるという心配を抱えている時でも、マニラ市に作られた無料のPCR検査場で検査を受けるには、面倒な行政手続きをしなければならないため、ほとんどの人が何もしません。食べていくだけでも、大変だからです。こうした人たちの間では、ワクチン接種もほとんど進んでいません。

[マニラのスラム・コミュニティの様子]

 マニラ首都圏は、つい2週間ほど前まで、一番厳しいロックダウン下に置かれていたため、働くことができずに苦しい生活を強いられている人は、増えていると思います。今は緩和されましたが、子どもは相変わらず、自分の住む地区から出ることを許されていません。

 いつもみなさんとzoomを使ったオンライン交流をしている地区では、失業者が多く、食べるに困る状況が続いています。昨年よりも、今の方が厳しい状態です。ただ、ワクチン接種に関しては、この地区の地区長がワクチンの大切さを住民に説明し、ワクチンも確保して接種を進めているため、大人はほぼ全員が接種済みです。子どもは、12歳以上は接種可能ですが、まだ接種が始まっていません。今月からだと思います。

 私たちが支援している他の7つのスラム・コミュニティについては、詳しいことはわかりませんが、大抵は地区長がきちんとしたワクチン接種の対応をしていないのではないかと想像します。症状から明らかに感染していると思われる人がいても、大抵は自宅療養で済ませています。そういう時、私たちは必要に応じて、ビタミン剤や解熱剤などの薬を提供しています。 

 今のところ、死者が出たという話はそれほど聞きません。ただ、今はデルタ株が流行しているので、とても心配です。

[路上とスラム・コミュニティへの支援]

 現在も、これまでと同様に、路上に残っている人たちには調理した食事(弁当)を、スラム・コミュニティには食料品とそれを使った食事を、週に3回提供しています。加えて、オンライン交流の際に見ていただいたような、保健衛生、教育、コミュニティの問題解決などに関するワークショップを実施しています。

 最近、親が失業した結果、路上暮らしとなった家庭の子どもを2人、私たちの施設に保護しました。養育放棄のケースです。親が問題解決に動かなかったため、子どもたちは自分で物乞いをして、飢えをしのいでいました。

 子どもを施設に受け入れる時には、必ず抗原検査を行わなければなりません。その費用は私たちの負担となります。知人の医師に特別に安くしてもらい、700ペソ(約1500円)で検査を受けさせています。PCR検査だと3000ペソ前後するので、抗原検査のみです。

 パンデミックが続き、各家庭の経済状況が日増しに悪化するなか、家族など身近な人による子どものオンライン性的搾取(インターネットを使って、大人が子どもの裸や性的行為をする姿を見せて、お金を稼ぐこと)が多発しています。(そうした画像を数分間見せるだけで1万円前後稼げるため。)

[スタッフの今]

 昨年からこれまでに、スタッフ2名が新型コロナに感染しましたが、重症化せずに回復しました。ストリートエデュケーターのスセットと、施設で調理を担当しているクリスティーナお母さんです。(ウィルマールの)妻の家族にも4人感染者が出ましたが、一時入院した人を含めて、皆、無事に回復しました。

 スタッフのほとんどは、ワクチンを二回、接種済みです。フィリピンでは、ワクチンの大半が中国製で、市民の中には安全性や有効性を疑って、打ちたがらない人もいます。

 フィリピンでの1日の感染者数は今、20,000人近いので、まだまだ厳しい状況が続くことは間違いありません。でも、私たち自身は、マスクとフェイスシールドを付けて活動することに慣れてしまいましたから(笑)、大丈夫です。

※ウィルマールさんは、ワクチンをまだ打っていないそうで、「私は、ファイザー製を打てるようになるまで待っているんです」と話していました。

[私たちへのメッセージ]

ソルさん

 Children Future Network(「ストリートチルドレンを考える会」の海外向け名称)のみなさん、私たちの状況を理解し、支援を続けてくださることに、心から感謝します。こちらの現実は、昨年3月から変わらず厳しいもので、パンデミックが長引く中、 労働の場のほとんどが閉鎖されている状態です。そのため、みなさんの支援が12月まで続き、今カバーしている8つのコミュニティや路上生活の子どもと家族に食べ物を届け続けることができるのは、大きな救いです。特に、子どもたちの食べ物を確保できることが、重要です。週3回は、確実にきちんと食事ができるのですから。

 みなさんのサポートは、本当に子どもたちの役に立っています。パンデミックが続く中で、私たちの仕事は、まだまだ続きます」

ウィルマールさん

 みなさんは、私たちの天使です!神様が、私たちを皆さんとつないでくれたような気がしています。私たちカンルンガンとみなさん、そのほかの私たちを支援をしてくれているNGOが連帯し、ともに活動する姿は、まさに「ひとつの家族」のようです。この「家族」全員で、支えを必要としている子どもたちに寄り添うという共通の目的を果たすべく、働いています。カンルンガンとその子どもたち、特にこのパンデミック下で守られるべき子どもたちのために、みなさんが提供してくださっている支援に、深く感謝します。

●メキシコ(メキシコシティ) NGO「オリン・シワツィン」


9月8日(水)、代表のディアナさんが、話をしてくれました。

[メキシコシティの様子]

 新型コロナの感染拡大が続いていましたが、ようやく減少傾向になってきたと言われています。とはいえ、私の感覚としては、状況は依然として厳しい気がします。人々が、マスク着用や手洗いといったことを、あまり意識していないからです。

 そんななかでも、保育園に通う子どもたちの親は、露天商売を続けています。パンデミック初期と異なり、政府ももう規制をかけられないほど、貧困家庭の経済状況が悪化しているからです。今、露天商売を制限すれば、多くの家族が飢えに苦しむことになります。親たちは、とにかく働き続けるしかないのです。

[保育園での感染状況]

 7月、この1年半で初めて、1人、感染者が出ました。ある少女の母親が、「娘の体調が悪かったので、医者に見せたら、新型コロナに感染していると診断されました」と電話で知らせてくれたのです。そこで、先生方や調理担当のラウラら、スタッフ全員と、症状のある子どもがPCR検査を受けたところ、ベレ先生の子ども2人が陽性となり、ベレ先生(陰性)を含む家族全員が計3週間、自宅隔離生活を送りました。2週間経ったところでPCR検査を受けて陰性を確認し、さらに1週間の隔離を経て再び受けたところ、陰性だったので、隔離終了となりました。

 保育園で確認された子どもやスタッフの感染は、今のところ、この3人だけです。ただし、これまでにも、自分の感染が発覚したにもかかわらず、子どもを保育園に預け続けていた親はいました。子どもは症状がなかったうえ、親も病気が回復した後になって「実は」と話すので、私たちはまったく気づきませんでした。スタッフが病気になることもなかったので。 

 子どもたちの親の中には、どんな病気になっても病院には行かず、自分で薬草などを使って治療する人が大勢います。「医者は信用できない」と言うのです。医療保険にも入っていないからでしょう。

 ともあれ、幸運なことに、オリン・シワツィンで新型コロナに感染し発症したスタッフはおらず、子どもたちも元気です。これからも、とにかく予防対策を徹底し続けるしかありません。 

 スタッフの大半は、1回目のワクチン接種を終えて、2回目を待っているところです。私自身は、来月、1回目を打ちます。最初はワクチンに不安があって、予約の案内があった時に手続きをしなかったので、遅くなってしまいましたが、今度(工藤律子に)会う時までには打ち終わると思います。

[子どもたちの状況]

 現在、35人の子どもたちが元気に通っています。学校がテレビ&オンライン授業であるために居場所を失い、オリン・シワツィンに来ていた卒業生(小学生)も、一部は学校に戻りました。今も保育園にいるのは、5人です。

 メキシコシティでは、各学校は、親たちの意見を聞いた上で、対面授業を始めるか、オンラインのままにするか、併用するかなどを決めています。それによって、まだ対面授業をやっていない学校にいる子どもたちは、引き続き、私たちのところにいるんです。

 調理係のラウラ(元ストリート少女だったシングルマザー)の次女ナオミは、今月から中学生になり、元気に学校に通っています。

[保育園運営の苦労]

 1年半続いているパンデミックのせいで、多くの親が失業や転職に追い込まれ、苦しんでいます。35人の子どもたちの親のうち、正規の保育費=週270ペソ(約1500円)を払っているのは、6人だけです。多くの親が、100ペソだけしか払っていません。失業で苦しんでいる親からは保育費を取っていませんし、週50ペソの人もいます。

 あるシングルマザーは、店員をしていた小さな店が潰れてしまい、失業しました。そこで、私たちは、次の仕事が見つかるまで、ある財団から寄付されたTシャツや傘といったグッズを彼女に渡し、「これを売って、生活の足しにして」と伝えました。

 また、ほかの親は、中米からの不法移民らしく、一部屋に10人で生活しながら、トルティージャ屋(メキシコの主食、挽いたトウモロコシで作られるトルティージャを製造販売する店)で働いているけれど生活が苦しい、と話してくれました。そうした人の力になるのが私たちの使命なので、保育費は家庭事情に合わせて決めています。

 ですから、今年は昨年以上に保育園の運営に苦労しています。足りない時は、スタッフが自分の給料を削って調整しています。例えば7月は、ベレ先生が自宅隔離のために3週間も休むことになりましたが、彼女の生活を支えるために給料は払うことにしました。ほかの先生たちが1人200ペソずつ、自分の給料から寄付してくれました。

[私たちへのメッセージ]

 日本の友人の皆さん、変わらぬ支援に心から感謝します。私は、みなさんがオリン・シワツィンだけでなく、メキシコシティの多くのNGOに手を差し伸べてくれていることを知っています。それらすべての団体の人たちの分も、感謝の言葉を送ります。

 皆さんの応援があるおかげで、私たちはこの素敵な仕事、私たちが愛する仕事を続けることができます。オリン・シワツィンに子どもを預けなければ、生活を維持できない家庭を支え、最も助けを必要としている子どもたちのために活動できることは、私たちの喜びです。みなさんのおかげで、この1年半、オリン・シワツィンの役割は、地域の人々にとって、以前にも増して重要なものとなりました。この素敵な仕事を続けられることに感謝しています。

 この素晴らしい仕事を共に担ってくださり、本当にありがとうございます。

(2021年9月発行のニュースレターNo320より)