私たちが応援するストリートチルドレン支援NGOは今

 6月から、運営委員が分担して、現地NGOの様子を皆さんにお伝えしています

 メキシコのNGO「カウセ・シウダダーノ」の現状報告

共同代表 工藤 律子
 メキシコでは、5月以降、新型コロナの感染が拡大の一途をたどっています。7月21日時点で、感染者数は約35万人、死者数も4万人に近づいています。世界でもワースト4に入る勢いです。特に状況が悪いのが、首都メキシコシティとその周辺地域です。

 メキシコシティに本部を置く「カウセ・シウダダーノ」は、南東部に広がる広大なスラム地域、イスタパラーパの一角で、貧困層の子どもや若者を支援するコミュニティセンターを運営しています。そのセンターの周辺で、現在、食糧支援を実施しています。ここは、メキシコシティでも最も新型コロナ感染が深刻な場所の一つで、人々は働きに出ることもできない状況です。

 また、メキシコシティに隣接するメキシコ州のスラム地域、エカテペックにおいても、同様の食糧支援を実施しました。どちらのスラムも、麻薬犯罪組織による犯罪が多発している地域で、パンデミック下の外出自粛生活の中、家庭内暴力や虐待が増加することが危惧されています。カウセ・シウダダーノでは、そうしたDV問題に関するカウンセリングも行なっています。

 先月頭、私たちからの支援金で実施された食糧支援の様子を撮影したビデオが、送られてきました。考える会のfacebookにアップされています。そのビデオで語られているメッセージを、ここで紹介します。

「6月5日、(同団体が貧困家庭の青少年のためのコミュニティセンターを運営する地域)ラ・パス区サン・イシドロ地区で、経済的に厳しい状況に置かれた人々に、食料を含む生活必需品を届けました。ストリートチルドレンを考える会の皆さん、寄付金をありがとうございます。そして、コミュニティから、コミュニティのために、この支援活動に参加してくださったすべての皆さんに、感謝します」

フィリピンのNGO「バハイ・トゥルヤン」からの現状報告
共同代表・野口 和恵
 3月~4月に緊急食糧支援にご協力いただいた、「バハイ・トゥルヤン」についての近況報告です。

 まず、マニラ首都圏の状況ですが、7月20日現在、「一般的なコミュニティ隔離措置(GCQ)」がとられています。これは3月から5月にとられた「強化されたコミュニティ隔離措置(ECQ)」にくらべると緩やかな措置で、一部経済活動は再開していますが、学校はまだ閉鎖中で、市民の足であるジプニーや相乗りタクシーも動いていない状況です。

 バハイ・トゥルヤンのマニラオフィスのふだんの事業は、子どもの一時保護所、若者たちの職業訓練を兼ねたゲストハウス運営、路上にいる子どもたちの教育活動、デイケアセンターですが、現在は、子どもの一時保護所以外の事業を休止しています。

 近隣の路上やコミュニティで生活している人の生活は、変わらず厳しい状況で、バハイ・トゥルヤンも食料支援を続けており、7月3週目にも、約600世帯に食料支援を行いました。これまで支援した世帯は、合計で4000世帯以上に上ります。バハイ・トゥルヤンはオーストラリア、米国、スウェーデン等にも支援者が多くいることと、マニラ郊外の定住ホームでは農業もしていることから、食料の資金面の問題はクリアできているようです。ただ、交通手段がないため、スタッフは暑い中、自転車で食料品店とオフィスを何度も往復して物資を調達するのがとても大変だと、ソーシャルワーカーのエナさんは話していました。

 8月からは隔離措置がさらに緩和されるといわれており、ようやくバハイ・トゥルヤンでも本来の活動ができる見込みだと聞きました。ただ、フィリピンでは現在、マニラ首都圏を中心に毎日2000人単位で感染者が増加しており、感染者数は累計約6万9000人にのぼっています。ドゥテルテ大統領はマスクを着用していない人やソーシャル・ディスタンスを守っていない人は、逮捕すると表明しており、実際に、先日もマニラで日中、家の外にいた少年たち50人が警察によって連行されるというできごとも起きています。

(2020年7月発行のニュースレターNo306より)

私たちが応援するメキシコシティのストリートチルドレン支援NGOは今

 6月初旬、私たちは、例年であれば8月下旬から9月初旬にかけて実施しているメキシコへのスタディツアーの際に寄付を届けている現地NGOに、緊急支援金を送りました。先月号で紹介したように、すでに緊急支援要請が来ていた「ジョリア、ニーニャス・デ・ラ・カジェ」と「オリン・シワツィン」には送金を済ませていましたが、そのほかの4団体へも、連帯の意味を込めて、支援金を届けました。どこもこの非常時に、「予期せぬ出費がある」、「寄付が減少する」など、活動維持に苦労しているからです。

 各団体への寄付額と目的

「オガーレス・プロビデンシア」10万円 施設運営への緊急支援。
「カサ・アリアンサ・メヒコ」10万円 自立生活を送る若者たちへの緊急支援。  
「プロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェ」10万円 緊急支援プログラムへの支援。
「カウセ・シウダダーノ」5万円 緊急支援プログラムへの支援。 
そこで今月からは、運営委員が分担して、現地NGOの様子を皆さんにお伝えします。

 NGO「オガーレス・プロビデンシア」の現状報告 1
 
運営委員 久野 佐智子
 4つの定住ホームを運営する「オガーレス・プロビデンシア」のプログラム・ディレクター、マリオさんから、施設で暮らす子どもの様子や、彼らを取り巻くメキシコの状況を、メールで報告していただきました。

 日本でもニュースで伝えられている通り、メキシコでは、新型コロナ感染の拡大が続いています。しかし、オガーレス・プロビデンシアの定住ホームにいる子どもたち(約100人)とスタッフは、幸い、全員が元気に過ごしているとのことです。5月22日時点のマリオさんからのメールでは、メキシコでは新型コロナウィルス感染が原因で、毎日400人以上が亡くなっており、新たな感染者が2000人以上見つかっているという話でした。その時すでに、患者を受け入れる病院は満床でどうにもならない状況で、亡くなった方々を埋葬する墓地も足りないと言われていました。

 現在では、そこからさらに感染が拡大し、メキシコ全土において、これまでに12万9000人以上が感染、1万5000人以上が亡くなったと伝えられています(WHO, 2020月06月12日のダッシュボード)。

 このように、メキシコ国内では感染拡大が続いているものの、オガーレス・プロビデンシアでは、子どもたちが感染しないように予防策を取っていること。そして、できる限り今まで通りの生活が送れるよう、スタッフ全員が最善の努力をしています。

そんな子どもたちの1日のスケジュールを、マリオさんに送ってもらいました。

オガーレス・プロビデンシアの子どもたちの1

10:00 - 13:30

学習支援(対象:幼稚園児、小学生、中学生)

13:00 - 14:00

自由時間(ボール遊びなどのスポーツ、歌や踊り)

14:00 - 15:00

昼食(子どもたちと職員一緒に)

15:00 - 15:30

食後の片付け、歯磨きタイム

15:30 - 16:00

休憩時間、子どもたちとのコミュニケーションの時間

16:00 - 18:00

10人以下のグループ遊び(例:ボードゲーム、色ぬり、学習ゲーム、サッカーなどのスポーツ、空手などの練習)

18:00 - 19:00

夕食

19:00 - 20:00

お風呂(シャワー)

20:00 - 21:00

TV鑑賞の時間

21:00

就寝時間(翌朝の起床は、6時半)

 子どもたちは朝6:30には起床し、勉強や遊びの時間が決められていることで、大変規則正しく生活しています。環境面においても、子どもがグループ単位で活動することで、遊びながらも他者との関わりや社会性を学んでいます。さらに、ここにいる5歳以上の子どもは、全員が週に1、2回、臨床心理士のカウンセリングを受けることで、心身ともに健やかに成長できるよう、配慮されています。

 マリオさんからは、次のようなメッセージをいただきました。

「みなさんからの寄付に心から感謝しています。寄付は、子どもたちが子どもらしく 安心して楽しく生活するために使わせていただきます。このような困難な状況ではありますが、私たちオガーレス・プロビデンシアはこれまで通り地に足をしっかりとつけて、大切な子どもたちを守っていきます」

 NGO「カサ・アリアンサ・メヒコ」からの現状報告 1

運営委員 芳田 愛実
 「カサ・アリアンサ・メヒコ」は、ストリートチルドレンの自立支援を行う団体です。ストリートエデュケーションとデイセンターのほか、メキシコシティに4つのグループホームを持ち、そこに男女合わせて206名が暮らしています(2019年のデータ)。

 プログラム・ディレクターのアレハンドロさんに、子どもたちの様子を伺ったところ、「変わらずやっているよ」という返事をいただきました。メキシコ政府が緊急事態宣言を出す1週間前から、子どもたちは外出自粛の生活を送っていたそうです。現在は、学校に行くことができず、すでに自立生活の準備のために働いていた少年少女たちも、職場が閉鎖されたり、給料が支払われなかったりしたために、大半が失業することになってしまいました。

 職員は、子どもたちがグループホーム内でも積極的に参加できる楽しいアクティビティを提案しなければならないのですが、外出できない中、共同生活をうまく維持するのが難しいと感じる日もあるそうです。とはいえ、6月20日現在もまだコロナウイルスに感染した子はいないそうで、安心しました。

 「この状況下で難しいことは何ですか?」と尋ねると、「感染対策と、グループホームで子どもの喧嘩が起こらないようにすること」と、仰っていました。

 また、2ヶ月ほど前からは、週に一回、メキシコシティにある4つのグループホームをオンラインで繋いで、それぞれのホームが何か発表する「ウィークリーチャレンジ」というアクティビティを実施しているそうです。普段のように会って一緒に活動することができない代わりに、オンライン上で繋がっていられるようにするもので、自粛生活にすごく役立っているそうです。

 「ウィークリーチャレンジ」は、教育プログラムの一環として行われており、例えば、先週は世界環境デー(6月5日)や世界海洋デー(6月8日)をテーマに発表が企画されました。発表の形式は、ニュース番組のパロディをしてみたり、演劇や歌にしてみたり、調査報告をしてみたり、と様々。グループホームでは、毎週の発表の準備をする時間が設けられています。そして、一人の審査員が、前もって定められた明確な評価基準に基づいて、その週の優勝チームを決定します。その基準とは、オリジナルなアイデアか、リサイクル品を使っているか、ホームの全員が参加しているか、といったものです。結果発表の後、次の週のテーマが公表されます。そして2週間の獲得スコアの合計から、最終チャンピオンを決定し、賞品が贈られます。自粛下なので、お店で買える少し特別な食べ物、例えばピザなどが賞品になっているそうです。

 子どもたちは、このアクティビティがとても気に入っているといいます。こうした活動を通して、不安や暴力を解消したり、頭痛や胃痛など、自粛生活の影響で出てきた体調不良を軽減したりすることができていると、アレハンドロさんたちスタッフは考えています。

 このオンライン対決アクティビティは、「カサ・アリアンサ・メヒコ」のスタッフの提案で、メキシコとグアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア、米国(ニューヨーク)にある、5つの「カサ・アリアンサ(米国ではCovenant Houseと呼ばれている)」の自立プログラム(グループホームの最終段階)に暮らす子どもたちの間でも、実施されています。第一回は5月27日に行われ、「これが私の家です!」というテーマの下、自分たちが生活している家(ホーム)を紹介しあったそうです。異なる国で暮らす子どもたちが出会う機会となり、「とても素敵だった、感動したよ!」とアレハンドロさんは仰っていました。7月には、第二回、地域対抗大会が行われるそうです。

 「カサ・アリアンサ・メヒコ」のスタッフの様子も、伺いました。スタッフは、コロナ以前は週5日の出勤でしたが、現在はグループホームや支援センターで3日間働き、2日間は在宅勤務をして、残りの2日が休日だそうです。子どもたちが感染しないよう、細心の注意を払っています。

 ストリートエデュケーションを担う路上チームは、コロナ禍で、路上の見回りを中断しており、代わりにグループホームの子どもたち対象の活動をしています。デイセンターも緊急事態宣言が出されて以降、閉所しているそうです。

 最後に、アレハンドロさんから私たちに提案がありました。「カサ・アリアンサ・メヒコ」と私たち「ストリートチルドレンを考える会」で、オンラインイベントを行おう!という話です。詳細はまだ決まっていませんが、ご期待ください。

 NGO「プロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェ」からの現状報告 1

共同代表 松本 裕美
 「プロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェ(以下、プロニーニョス)」は、メキシコシティで27年に渡り、路上生活をする子ども・若者たちの支援をしている団体です。現在はさらに、路上生活に移行するリスクの高い子ども・若者および家族も対象にした活動を実施しています。私たちの会は、毎年スタディツアーで訪れていて長年の交流があり、現在会が実施している「フィリピン&メキシコと共に歩む2020キャンペーン!」の対象団体にもなっています。

 3月、代表のラウラ・アルバラドさんが現地のニュース番組に出演し、新型コロナウィルスの感染が世界で広がる中、路上で生活している人たちはハイリスク状態に置かれており、支援が必要だと発信しました。その時点では、プロ・ニーニョスは感染対策を取りつつ、デイセンター(路上で暮らす子ども、路上暮らしになるリスクが高い子どもが利用できる場所)を開け、子ども・若者たちを受け入れていました。そこでシャワー、洗濯、着替えの機会と栄養ある食事2回、遊びの時間を確保しつつ、子どもの健康状態をモニタリングしていました。

 4月21日にメキシコ保健省が最も高い感染フェーズ3を宣言し、不可欠な活動以外の事業をすべて停止する措置を決定するまで、スタッフは路上の子ども・若者たちがいる場所を定期的に訪問しては、無料でつながる電話番号を渡して、グループのリーダーと連絡が取れるようにした上で、パンデミックとその流行に関する重要な情報を伝えていました。また、路上生活をしている子ども・若者や家族が、必要な医療処置を受けられるように、特定の医療機関との合意もとりました。その後、行動制限が厳しくなる中、15日ごとに食料および衛生用品パックを届けてまわる活動を何とか継続しています。

 6月19日、現地紙MLENIOの「コロナウィルスは、メキシコの路上で子どもたちを支援するNGOを危険にさらしている」という記事に、プロ・ニーニョスとエドニカ(プロ・ニーニョス同様、路上の子ども・若者たちへの支援を長年継続している団体)の代表のコメントが掲載されました。

 エドニカの代表からは、「子ども・若者たちに届く言葉で、情報発信することが必要」というコメントがありました。というのも、路上生活をしている子どもや若者の多くが使用している有機溶剤(シンナー)が「コロナウィルスを殺す」という嘘の情報を、彼らが信じていたからです。それは路上で彼らと接する仕事をするNGOスタッフだからこそ、キャッチできる情報です。

 パンデミックは、ほかにも様々な問題をもたらしています。NGOで働くスタッフやボランティアの中には、予防のためのリソース(衛生用品などを必要なだけ購入するための予算)がないために、一時的に活動を止めざるを得ない人がいることも、その一つです。プロ・ニーニョスでは、44名のスタッフと22名近くいるボランテイアの活動の見通しがなかなか立たず、デイセンターに通っていた7歳から12歳の子どもたちと、「自立への移行のための家」に住んでいる青年たちの生活も、変更を強いられています。プログラム運営の形態を変えていかなければならない点が山ほどあり、すべての支援対象者と連絡を取り合うことも、まだできていない状態のようです。

「最も困窮している人たちは、十分な情報を手にすることができていません。政府は、貧困層に対する直接的な支援、特定の必要をカバーする活動にもっと力を入れるべきです。メキシコの行政機関は長きに渡って、貧困層への社会政策をあまりにもなおざりにしてきました」

 プロ・ニーニョスの代表ラウラさんは、MILENIO紙でそう訴えました。

 先日、教育部門コーディネーターのデニスさんとオンラインで話をした際には、多くのストリートファミリーが安宿に滞在している、と聞きました。プロ・ニーニョスは、そうした人々と直接会えなくても、関わりを維持できる方法、ツール作りを進めているとのことです。

 また、今年は会がスタディツアーで訪ねることができないと知ると、

「ビデオ通話でプロ・ニーニョスの案内ができたらと思うんだけど、どうかな?」

という提案をしてくれました。

 メキシコシティでは外出制限が延長されていますが、そんな中でも必要な活動が継続されるように、私たちもできることをしていきたいと思います。

(2020年6月発行のニュースレターNo305より)