グアテマラの子ども その7


*中米グアテマラの地元メディアの記者が、現地の子どもたちの様子をレポートします。

  現地記者 ハイメ・ソック

 アダルベルト・ガルシアは、12歳のイタズラ好きでやんちゃな男の子です。彼のことをからかうような友だちが周りにいると、すぐに暴力を振るうところがありますが、それには理由がありそうです。

 彼の家族について聞くと、お父さんはケツァルテナンゴ(グアテマラ第二の都市)のマイクロバスの運転手であることがわかりました。ここでは、バスと同じようなルートで、バスより頻繁にマイクロバスが走っています。アダルベルトのお父さんは遊び歩くことが好きで、夜もしばしば家を空けるようです。お母さんはデボラといい、仕事は洗濯屋です。といっても、お店があるわけではなく、近所の家に出向いて、その家の洗濯物を引き受けることで稼いでいるのです。

 困ったことに、アダルベルトは学校でよく問題を起こし、親が呼び出される事態を引き起こします。悪さをして親が呼び出されるときは、決まってお母さんのデボラが、学校へ行くことになります。そして、お父さんはそのような時、すぐにアダルベルトに手を上げます。その殴り方は容赦ありません。お父さんは、子ども自身に悪いことをしたと自覚させるためには、痛い目に合わせないと理解しないのだと、信じ込んでいるからです。しかしながら、こんな教え方では、子どもをさらに暴力的にするだけです。それだからアダルベルトは、学校の同じクラスの友だちが悪いことをしたと思ったら、平気で殴って、“教え”ようとするのです。

 そんな暴力的な彼ですが、実はプロテスタントの教会の牧師になりたいと思っています。そのために、教会に通い、聖書の勉強を続けています。お母さんはそんな彼を見ながら、教会で、アダルベルトが良い子になり、将来は良い家庭をつくれるようにと涙を流しながら、神様にお祈りをします。

 グアテマラでは、このような家庭環境で育つ子どもたちは、工藤律子さんの著書『マラス』に出てくるような、ギャングの仲間に入りやすい傾向にあります。なぜなら、貧しくて朝から晩まで働かなければならない母親や、仕事の後にもお酒を飲みに行ったりして、長時間、家を空ける父親が多いため、子どもたちは注意をしてくれる大人の目がないところで、友だちと過ごす時間が長くなるからです。道端でフラフラとしているうちに、ギャングまがいの知り合いができ、一緒に過ごす時間が長くなれば、仲良くなっていきます。 

 そのような子どもたちは、家庭で暴力を受けているケースが、多々みられます。暴力の連鎖で、道端でも、アダルベルトが学校で振舞うのと同じように、友だちに対して暴力的になり、すぐに喧嘩になったり、殴り合いになったりします。学校での喧嘩は先生が止めてくれますが、道端だと周りの人が集まってきて、目立ちます。それを見たマラスの仲間が、喧嘩をしている子どもに声を掛けて、“(ギャング)仲間の輪”がひろがっていくのです。

 だから、アダルベルトのお母さんは、涙を流すほど心配をしているのです。息子のことは心配だけれど、貧しいために、外で働かなければならないという葛藤。夫に、稼いだお金を家に入れて欲しいとか、遊びに行かないで帰ってきて欲しいなんてことを言おうものなら、自分も暴力を振るわれるという恐怖感。そのような状況のもと、お母さんには、この家庭問題に対する解決策がありません。教会に行って神様にお祈りすることしかできないのです。

 さて、やんちゃでお母さんには心配ばかりかけているアダルベルトですが、実は、詩の暗唱大会で優勝したことがあります。彼のことをよく見ている担任の先生は、彼は賢くてリーダーになれるカリスマ性がある、と言います。その聡明さやカリスマ性が良い方向へ行けば、将来はグアテマラの社会の素晴らしいリーダーになれるはずだと、信じています。複雑な家庭環境で育つ彼の救いは、教会に熱心に通っていることでしょう。外で喧嘩をするのではなく、教会で学び、お祈りを続けて、多くの人を惹きつけるリーダーになってもらいたいものです。

(2017年6月発行のニュースレターNo269より)

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